平成22年度宮城県原子力防災訓練「緊急被ばく医療訓練」報告

仙台医療センター緊急被ばく医療2次施設に指定されております。女川原子力発電所等で被ばくを伴う入院治療が必要な患者が発生した場合、通常の救命救急医療にくわえ放射線管理を伴う緊急被ばく医療を行うこととなります。仙台医療センターでは宮城県原子力防災訓練に参加し緊急被ばく医療の展開が適切に行えるよう備えております。
訓練実施日 平成22年11月4日(木)
参加行政機関 宮城県,石巻保健所
参加医療機関 仙台医療センター
石巻赤十字病院
放射線医学研究所
参加搬送機関 宮城県防災ヘリコプター管理事務所
仙台市消防局
石巻地区広域行政事務組合消防本部
参加事業所 東北電力
目的 「宮城県原子力防災緊急時被ばく医療活動マニュアル」に基づく緊急被ばく医療活動の連携強化 (ヘリコプターを用いた汚染患者搬送の連携の確認)
主な訓練項目 (1)緊急被ばく医療関係各機関の連携(情報連絡を含む)
(2)消防(石巻広域消防,仙台市消防局)による汚染患者の搬送
(3)宮城県防災ヘリコプターによる汚染患者の搬送
(4)仙台医療センターによる汚染患者の医療処置 (汚染および内部被ばくを想定した処置)
想定事故
女川原子力発電所2号機 原子炉建屋地下2階の放射線管理区域内において,加熱蒸気配管より突然 蒸気が噴出して,点検作業立会い中の東北電力社員1名が顔面と左前腕に火傷を負う。
a.顔面 (汚染なし) 気道熱傷の疑いあり (内部被ばくの疑いあり)
b.左前腕 (汚染あり)
汚染,被ばくの状況 蒸気(放射性物質が含まれていない蒸気)を受けて床面に転倒した際に,床面等より周囲の放射線物質が付着し,火傷を負った左前腕部が汚染する。
前腕部の汚染は当初 100Bq/cu あったが,発電所除染室で除染処置を行い40Bq/cu の汚染が残った状態で医療機関へ搬送される。
発電所で鼻腔スミアを採取したところ,核種(コバルト60) が検出されるが搬送を優先し,発電所でホールボディカウンタによる測定をせずに救急隊に引渡しされる。(鼻腔スミアのカウント数は 4,000 cpm)
仙台医療センターで行った訓練の状況を中心に報告する。
今回の訓練で仙台医療センターでは
1.緊急被ばく医療2次施設としての訓練実施
2.放射線医学研究所との連携
3.ホールボディカウンターによる内部被ばくの評価
4.アクションカードの検証
を主な目的事項とした。

訓練進行予定
時間 県策定進行 仙台医療センターの対応
12:30 事故発生
12:40 原対室からFAX発信 災害対策本部立ち上げ
石巻日赤病院との電話による連携
患者の受け入れ決定
放医研への支援依頼
受け入れ準備開始

14:15 防災ヘリ離陸
14:40 ヘリ荒浜ヘリポート到着
救急車に乗り換え仙台医療センターへ
15:20 救急車が仙台医療センター到着 2次施設処置室にて医療処置
除染処置
15:50 医療処置終了 WBC計測・評価
養生解除
16:30 仙台医療センターの安全確認
安全公表(省略)
訓練終了

搬送されてくる患者の状態
自力歩行可,意識正常
左前腕負傷部位に“汚染有り”
(当初100Bq/cu⇒搬送時40Bq/cu)
内部被ばくの疑いあり

訓練の様子
第1報のFAX連絡受信
仙台医療センター内に災害対策本部を設置
災害対策本部では対応の手順を確認、要員の確保。
アクションカードを配布した。
養生
2次施設の養生を実施
測定機器の動作確認、養生
必要物品・機器の搬入
2次医療施設は別棟となっていて、普段は医療器材は配置していないため運び込むこととなります。
医療器材の養生
各種災害用医療器材を医療スタッフにより養生します。
医療処置用ストレッチャーの養生
2次施設搬入ルートの養生
汚染する可能性のある床、壁面をスタッフ総動員で養生します。
処置室内養生
処置室は3.2m×8.2mと狭く作業スペースを考えながらの養生となります。
ホールボディーカウンターの養生
想定では汚染がない状況での測定ですが実践では嘔吐等により汚染が発生することも考えられるため養生します。
準備完了
医療処置・除染処置をするエリアはろ紙シートをはり、放射能マークテープで識別します。
スタッフの防護
除染エリア内スタッフは術衣、管理区域エリアはタイベック防護服で防護します。
救急車到着(15:20)
救急隊の汚染検査
東北電力放射線管理要員により救急隊員の汚染検査
患者搬入
救急隊に汚染がないことを確認後患者の搬入
救急隊のストレッチャーのまま処置室へ
医療処置、除染エリア内ストレッチャー上に患者を移し患者を覆っていた袋を開く
クイックサーベイ後医療処置開始
除染エリア外の管理区域ではアドバイス、記録等担当者が配置
防護服非着用者は訓練の様子の視察、映像記録者
医療処置、除染後の精密サーベイ
汚染がないことを確認後病院で用意したガウンを着てWBC計測へ
WBC計測では、放医研、東北電力と情報交換
訓練では計測時間120秒
WBC計測結果、MONDAL3計算結果を放医研より情報提供をもらいながら当院放射線科医が評価
救急隊の汚染検査は東北電力放射線管理要員が担当
訓練終了後の反省会は原安協放医研、東北電力の訓練支援者、視察者、協力者も交えて行われた
WBC計測結果、MONDAL3計算結果
WBC スペクトル波形 (コバルト60チェッキングソースを同時に計測)
WBC 解析結果 (残留放射能は4090Bqと計算された)
MONDAL3 パラメータ・結果画面 (計数値がすくなかったためWBC計測値に100倍した放射能量を入力し9.2mSvの実効線量が算出された)
MONDAL3 組織等価線量計算結果
これら解析結果は放医研の助言、東北電力からの情報提供によりパラメータ入力を行い得られた値で、これら値から、放医研の支援の下医療判断が行われた。
訓練後の反省会の主な項目
連絡系 ・放医研への支援要請連絡が抜けるとともに、電話した際に緊急ダイヤルでない番号に電話をしてしまった。
対策:放射線科医のアクションカード裏面は緊急連絡先資料とした
養生面 ・床面のシートは壁に立ち上がるように敷く、エプコシートはゆとりをもつ。
・WBCの道のりも念のため養生
対策:マニュアル改訂
・患者収容後もドアが開いたままであった
医療処置 ・救急車から患者が搬送されて来て申し送り等している間、患者容態確認等がおろそかになっていた
・汚染部位の処置等は長めのセッシを使用する、なるべく距離をおいて処置をする等術者の被ばくを少なくするように
・洗浄部分の床面には紙おむつ等を敷き、拡散を防いだ方がよい
サーベイ ・傷口を計測する際は覆っているガーゼ等はがした状態で計測
・患者が運ばれてきて着衣、タオル等かけていたら、それらのものは全て取り去ってから計測、タオル等必要な場合は別に用意する
・汚染がない部分の計測結果を告げるときも計測値を告げる
・サーベイメータのコードが患者さんの身体に触れていた。首からまわす等触れないようにする
・全身精密サーベイで汚染がないことを各部位ごとに計測報告していたが、計測もれがないように確認できるチェック記録用紙があった方が良い
対策:マニュアル改訂、記録用紙改訂
その他 ・救急車が到着してから患者を受け入れるまで時間を要していた。救急隊、ストレッチャー周り等、汚染検査の時間短縮をはかる(関係機関と協議が必要)
・アクションカードは首から下げて使用するので、取り上げて見たときに見やすい向きに印刷しておいた方がよい

対策:アクションカード改訂